アメリカンフットボール・鈴木將一郎さん｜求められ、期待に応え続けた先にあった日本一の景色

　求められる環境に光を与えることで自身が輝く。アメリカンフットボールの富士通フロンティアーズで長くプレーを続けた鈴木將一郎さんは、自分を知る者の助言や期待を受け入れ、導かれた進路で輝いた選手だった。

　大学から競技を始める選手が多いアメフトの世界において、父の助言で高校進学時に競技転向。専修大、富士通と進む中では、ポジションが変わったことが飛躍の転機となった。 富士通では、35歳で自身初の日本一。求められる道で活躍を続けた背景には、どのような姿勢や志向があったのか。インタビュー前編では、競技キャリアの歩み方を振り返ってもらった。

――鈴木さんは、アメフトを高校から始めたのですね。日本では大学で盛んな競技というイメージがあります。

鈴木　多くのメジャースポーツにおいて、選手の人数はすそ野が広いピラミッド型だと思いますが、アメフトはひし形です。選手層が最も厚いのは大学で、その前後は人数が少ないです。中学校でタッチフットを始める人はいますが、それもごく少数。私も含めて、早い人でも高校から始めるという形です。

――活躍できそうな競技を探して、アメフトを選んだと聞きました。

鈴木　幼少期は足が速かったのですが、中学生になると周りの子の方が身体の成長が早く、段々と周囲に抜かされていきました。小学生の頃は、サッカーやバスケットボールなどもやってみましたが、いまひとつ。中学校は、丸刈りが嫌で野球を避け、陸上部に入ったのですが、日の目を見ませんでした。 それでも運動は好きで、高校でもスポーツをやりたいと思っていました。何に重きを置いて進学先を選ぼうか迷ったとき、アメフトが好きだった父に「（小・中での経験者が少なく）高校から始められるスポーツがいいんじゃないか」と勧められ、アメフト部がある高校を探して、足立学園高に進学しました。

――運命が大きく変わったことになりますね。大学生、社会人になると「今からでも日本代表を目指せる競技を」と競技を転向する人もいますが、高校進学時の競技の選び方としては、珍しい気がします。

鈴木　当時は、日本代表に入ろうとか考えたわけではなく、単純でした。高校も運動部に入るなら、楽しめる競技が良いと思って、今からでも可能性がある競技を選びました。ある程度、自分の偏差値に見合うところで、アメフトができればいいと考えていました。

――長く続けることになりましたが、アメフトは最初から楽しかったですか？

鈴木　見た目の怖い先輩がいて、仮入部の期間は練習に参加するのが嫌で、意を決して行った記憶があるのですが（笑）、やってみたら楽しかったです。チームは強くありませんでしたが、中学時代にやっていた陸上と異なり、団体種目で仲間と一緒に戦うということが楽しかったです。

　高校1年生の夏過ぎくらいから、チームの戦力になることができ、先輩たちが競技で大学に進む姿を見て「自分も」と思うようになりました。当時は関東だと日本大、法政大、関西なら立命館大、関西学院大がトップクラスの強豪でしたが、そこまで高いレベルで勝負できるのかは分からない。そんな中で進学先に選んだ専修大は、当時は優勝争いに関わることもあるチームでした。大学の指導者の方に評価していただけたこともあり、私としては結構な挑戦でしたが、進学先に選んで競技を続けました。

――大学でのポジション変更が、その後の飛躍のカギだったようですね。

鈴木　そうですね。私は、オフェンスライン（パスを投げる味方やボールを持って走る味方を、相手のタックルから守る役）をやっていました。社会人だと、日本でも身長は180センチ後半、体重110キロ程度は当たり前の世界なのですが、私は180センチ90キロで軽い方。当時は、そのまま社会人の世界に進んでも厳しいかなと感じていました。でも、大学3年生になるときにチームでラインバッカ―（ボールを持って走る相手選手へのタックルを狙う役）に、ある程度のサイズとスピードのある選手が欲しいという話になり、私がコンバートされました。思い切った選択だと驚きましたが、私の未来は、そこで広がりましたね。

――やりたいポジションや役目にこだわる選手もいますが、チームへの貢献が上回ったのですか？

鈴木　最初は後ろ髪を引かれる思いもありました。オフェンスラインの練習を見て、本当はあっちなんだけどな、と思ったり。でも、とにかく急務で対応しなければいけないと思って、一生懸命に取り組みました。やっぱり、組織の中にいたら、チームの戦力にならないといけません。それに、新しい役割で認められると、もっと評価されたいと思えましたし、ここが自分のポジションだと責任感を持てるようになりました。与えられた環境で頑張るところは、社会人になっても、例えば営業先が変わるときなどに経験として生きたかもしれません。

――新しいポジションでの活躍が認められて、富士通から声がかかったのですね。

鈴木　日本アメフト界の課題ですが、プロとして活動できる選手は少なく、競技を続けるのは大学生までという選手が多い環境です。私も最初は消防士になろうと思っていました。大学4年の春に富士通から声をかけてもらったのですが、良い会社に入れて競技も続けられるのならばと、初めて社会人プレーヤーになることを意識しました。

――社会人は、仕事と競技の両立が求められますが、その点での苦労は？

鈴木　最初から「そういうもの」だと思っていたので、違和感はありませんでした。ただ、最初の3、4年は、頭のどこかに「オレはアメフトで活躍できればいいんだ」という、あまり良くない考えがありました。

　実は、入社してから社会人でもプレーが通用すると感じたので、米国NFLの登竜門となっているNFLヨーロッパに行ってプロになりたい気持ちが芽生えていました。ただ、トライアウトに合格できなかったことや、富士通フロンティアーズに対するチーム愛が出てきたことで、段々、富士通のアメフト部で優勝したい気持ちが大きくなっていきました。 また、仕事の面でも会社で少しずつ任されることが増え、考えが変わって行きました。私は営業職だったのですが、アメフトをやっていることに対して、お客様に興味を持っていただき、映像などで試合を観てくれる方も多くいました。そうすると、競技をする私を応援してくれて、会社のお客様でもある方たちとの仕事への責任感が増していきました。

――自身が置かれた環境を大事にすることが、仕事と競技の両面で意欲を生む循環になったのですね。35歳だった2014年にXリーグで人生初の日本一を達成しましたが、どんな思いでしたか？

鈴木　35歳で日本一になるまで競技を続けてすごいと言われたこともありますが、私としては、チームに戦力として求めてもらっている状況で辞めることは考えませんでした。個人では、オールX（リーグの優秀選手）や日本代表に選出されましたが、チームの日本一がありませんでした。当時、富士通は10回くらい決勝戦に進んで一度も勝てず、シルバーコレクターと呼ばれていて、どうしても優勝させたいと思っていました。現役生活を振り返ると、チームで、みんなで頑張り続けて日本一を経験できたことが一番大きかったです。

後編はこちら

【鈴木將一郎プロフィール】
富士通株式会社
ソーシャルシステム事業本部 キャリアソリューション事業部　マネージャー
兼　富士通アメリカンフットボール部フロンティアーズ事務局長
埼玉県出身　1979年生まれ
高校進学を機にアメリカンフットボールを始め、大学はより高いレベルを求め専修大に進学。オフェンスラインの選手としてプレーしていたが、大学3年時にラインバッカーにコンバート。このポジション変更が契機となり大学東西オールスター戦メンバーにも選出される活躍を見せる。大学卒業後は富士通フロンティアーズに入団、日本代表にも選出される。2014年には自身の競技キャリア初であり、フロンティアーズ創部依頼初でもある日本一となった。主将として臨んだ2016年の優勝を皮切りにした4連覇にも貢献。41歳での現役引退以降は社業に専念していたが、2025年2月よりフロンティアーズ事務局長に就任し再びアメフト界に戻ってきた。