バスケットボール・湊谷アレクシスさん|売上10倍に成長させた経営手腕で挑む、引退選手の受け皿となる事業づくり

湊谷アレクシスさんは2019年に横浜ビー・コルセアーズでBリーグの選手を引退した36歳。30歳でネクストキャリアに踏み出した彼は市場での仕事、家業である西京漬け販売の手伝いといったステップを踏みつつ、サプリメント販売の「株式会社Alexis」を起業する。
さらに昨年からは同学年の現役Bリーガーである篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)、橋本竜馬(ベルテックス静岡)とともに「88 Basketball」の活動をスタートさせた。3人でイベントの準備やスポンサー集めを進めており、6月中旬にはバスケット少年について夢のような企画も予定されている。
彼はなぜ今の事業、活動とめぐり逢い、起動に乗せたのか?インタビュー後編はセカンドキャリアの「ロールモデル」として、湊谷さんにスポットを当てている。
――引退直後は市場での仕事、家業の手伝いなどをして、そこから起業に踏み切りました。
湊谷 自分の中で「ビジネスもやりたい」という感覚はずっとありました。それは母親がずっとビジネスをしていた影響だと思います。
働き出して2、3カ月くらいで「このままだと自分のビジネスができない。切り替えて考えないと」と思い始めました。そこで(市場のときと同じく)ビーコルのスポンサーさんで、いろんな事業をやっている方に相談をしました。「自分のストーリーに合ったものがいいのでは」とアドバイスもいただいて、そこからサプリメントをやろうと決めて、さらに1年くらいかかりました。
――サプリメントの事業について、改めてご説明をいただけますか?
湊谷 自分の人生のストーリーにつながったビジネスを考えていく中で。「怪我をしないための身体作りをするサプリメント」に行き着いたんです。1年くらいかけて組み合わせを考えながら、自分で試飲もして、開発をして31歳のときから「株式会社Alexis」という会社でサプリメントの販売を開始しています。
――サプリメントは規制もありますし、発売までにいろいろな「壁」も合ったと思いますが、どうでしたか?
湊谷 壁しかなかったです。30歳まで本当にバスケットしかしてこなかったので、すべてが新しいこと尽くしです。お客様とのメールも丁寧語が分からなかったし、いろいろな壁に当たりながら続けてきました。

――どういうコンセプトでサプリメントを開発したのですか?
湊谷 ケガは「体重過多」「筋力不足」「疲労」の3つで起こります。それをいかにサプリメントで補助してあげるかにフォーカスして作りました。
――商品開発はどう進めたのですか?
湊谷 プロの方に来てもらって「こういう効能がある、成分が入っているものを使いたい」と伝えながらです。成分に関してはまったく無知だったので、「こういうのを入れたい」「これはどうか」と試行錯誤して、それが1年くらいかかりましたね。
――販路の開拓とかは、売り上げの成長など、比較するとどうですか?
湊谷 4期目から5期目に差し掛かる頃ですが、一応、順調に来ています。基本的に通販で、卸もやっています。スポーツジムなどにも飛び込み営業をやりました。売り上げとしては、初年度に比べて10倍くらいになっています。事業を一つ作り上げたので、これは売却をして、また新しい事業をやりたいなと考えています。
――「88 Basketball」は、篠山竜青選手や橋本竜馬選手とのやり取りもあったと思いますが、こちらはなぜ始めようと考えたのですか?
湊谷 2023年の秋ですが、先に橋本と篠山が会って「セカンドキャリアどうするの?」みたいな話をしたらしいです。そこで名前が出たのが僕でした。先に引退をして、自分で会社を作っていろいろやっている……ということだと思います。去年の春頃に二人から「一緒にご飯行こう」と誘われて話をして「やっちゃおうよ」みたいな流れでした。2カ月後くらいには山口と鹿児島でクリニックをやっていました。 僕もバスケットをやってきたので、自分の経験を還元していきたい気持ちはずっとありました。会社も落ち着いてきて、ちょうどいいときに声を掛けてもらいましたね。

――これから活動をどう広げていくのか、その辺りはいかがですか?
湊谷 一つはやはり子どもたちに向けたクリニックです。それは僕たちの基盤で、ブレないところです。他にもYouTubeだったり、今はアプリみたいなものに向けても動いているのですが、話しをすると「これをやりたい」「あれをやりたい」とどんどん意見が出てきます。
――幅を広げて、経営規模も大きくしてやっていくお考えがあるんですね。
湊谷 最初は会社を立ち上げる気がなかったのですが「ビジネスとして、経営もしっかりやっていきたい」「セカンドキャリアの受け皿になれたらいい」という話が出たんです。クリニックだけでは経営的に厳しいところもありますから、自分たちでビジネスを作って売り上げを立てることが必要です。
引退をした選手の「受け皿」という狙いもあります。現状のバスケ界ではコーチ、バスケスクールをやるか、知り合いの会社に入ってサラリーマンとして働くか……くらいしか聞きません。ビジネスを始めた自分みたいなキャリアはほとんどないと思います。でも、もっと多彩なキャリアを目指す、目指せる選手がいるはずです。
――現役ではない湊谷さんの方が動きやすいだろうとは思いますが、「88 Basketball」の内部はどのような役割分担になっていますか?
湊谷 クリニックのときは二人に任せていて、特に篠山を中心になってやってもらっています。橋本はクリニックもそうですけど、会社としてスポンサーを集めているので、そういうところも動きながらやってもらっています。会社のことは基本的に僕がすべてを把握して指示を出しています。社内で働いてもらっている方もいるので、自分が指示をしながら、イベントなどを仕込んでいます。

――「スポンサー集め」の話もありましたが、橋本さんや篠山さんがスーツを着て企業を回っているわけですね。
湊谷 結構行ったと思っています。5社は発表していて(4月9日時点)、これからさらに数社がサポートしてくださる予定です。「初めまして」で行くのではなく、自分たちとつながりのある会社が多いです。SNSで情報を出していると、僕らの同世代や、近い世代の起業されている方から連絡をいただいています。バスケをやっていた方からの連絡も結構ありましたね。
――橋本さんや篠山さんは営業も強そうです。
湊谷 二人はいろんな方とのつながりが深いし、バスケット関係者なら相手がどなたでも話ができます。会社としてかなり助かっています。
――2024-25シーズンが終わったあとのオフにどのようなイベントをやるか決まっていると思いますが、いかがですか?
湊谷 橋本の出身校でもある福岡大学附属大濠高校で、6月14日から1泊2日の合宿型のキャンプをやります。全国から中学生の応募を募って、僕たちの方で選考して、24名に参加してもらいます。「篠山チーム」「橋本チーム」に分かれて、Bリーグの選手と同じようなスケジュールを体験してもらう内容です。スキルコーチに教えてもらって、試合前の戦術ミーティングをして……という流れをやります。

――ヘッドコーチ役は誰がやるんですか?
湊谷 それを篠山と橋本がやります。片峯(聡太/福岡大大濠監督)先生とか、他のコーチと話す機会もあります。
――参加者の希望は多そうですが、選考はどうやりますか?
湊谷 映像と今までの経歴などの情報を出してもらって、僕たちがそれを見て決めます。大濠高校でやるし、ある程度レベル的には高いものにしたいと思っています。子どもたちにもアピールの場にしてほしいし、強いチームに所属していなくても上手い子は絶対いるので、そういう子たちもぜひ参加してほしいです。

――ネクストキャリアで様々な苦労をしつつ、今は充実した時間を過ごしている湊谷さんですが「現役のときにこれをやっておけば良かった」ということは何かありますか?
湊谷 賛否両論かもしれないですけど、僕は現役のときにもっとビジネスとかを勉強する時間を取れば良かったと後悔しています。全体練習は長くても2時間で、その後にケアを入れても4、5時間でしょう。僕は残りの時間を使えば良かったなと思っています。
――「ビジネスの勉強」と言っても色々ありますが、例えばどんなことでしょうか?
湊谷 何かやりたい分野があれば、ネットなどで学べる環境が今はあります。あと会計は必須ですね。今はバスケをやりながらビジネスをする選手が少しずつ出てきていますけど、僕は「バスケットに専念したい」側でした。でも今考えると、1日1時間でも、他のことに使った方がよかったと思います。引退した後の方が人生は長いですから。
――現役選手に向けたメッセージをお願いします。
湊谷 矛盾するようですが「バスケに専念してほしい」という思いもあります。でも引退して社会に出て感じていることは「少しでも良いから、自分のやりたいことに時間を使った方が、引退した後の人生は華やかになると」ということです。

【湊谷アレクシスプロフィール】
株式会社Alexis 代表取締役 CEO/合同会社はちはち 業務執行役員
青森県青森市出身 1988年生まれ
学生時代は常に強豪校の中心選手として活躍し、津軽中、洛南高、青山学院大で多くのタイトルを獲得。2010年に三菱電機に入団しプロ選手となった。その後つくばロボッツ(現茨城ロボッツ)を経て、横浜ビー・コルセアーズに加入。現役時代はアキレス腱断裂を始めとする多くのケガに悩まされ、2019年に現役を引退した。引退後は家業の「西京漬け湊屋」と横浜市場での卸の仕事についていたが、自身の経験を活かしたいとサプリメントの販売・卸事業を行う株式会社Alexisを立ち上げた。さらに2024年からは、同じ88年生まれの橋本竜馬、篠山竜青とともに88 Basketballの活動を開始し、バスケットボールクリニックを各地で開催するなどしている。
2024年6月14日・15日に、中学生を対象とした1泊2日の合宿型キャンプ「88 Special Camp × 福大大濠トロージャンズ」を福岡大学附属大濠高等学校にて開催予定。
詳細はこちら:https://88basketball.jp/88SpecialCamp
やや守備範囲が広めのスポーツライター。時にはスポーツ界の「ファウルグラウンド」まで取材のグラブを伸ばすことも。 サッカーキング、バスケットボールキング、ベースボールキングに続いて、ついにバレーボールキングへの進出も果たした。

1991年生まれ、宮城県出身。 小学生の時にマンチェスター・ユナイテッドを心のクラブに選定。取材で、マン・C/アーセナル/チェルシーなどに携わることができたが、未だにマンチェスター・ユナイテッドからの話は無い。