サッカー・末次敦貴さん|上を目指すだけじゃない生き方へ 働きながら戦うGKの決断と手応え

2025.12.30
取材/ 大島和人
撮影/ 須田康暉

 今回はインタビューの後編として、あるサッカー選手の「デュアルキャリア」を紹介する。末次敦貴さんは横河武蔵野FCに2023年から所属するGKで、現在29歳。人材派遣会社「リクルートスタッフィング」でフルタイムの勤務をしながら、JFL(日本サッカーリーグ/J1から数えて4部相当)のクラブでレギュラー争いをしている。

 横河武蔵野FCは2012年の天皇杯でベスト16まで進んだチームであり、末次さんがポジションを争っている若林学歩選手はJ2大宮からの期限付き移籍で、年代別日本代表経験も持つ人材だ。末次さんがサッカー選手としてもかなりの実力者であることは申し添えたい。

 彼は26歳まではサッカー選手としてのキャリア、レベルアップを経験し、所属チームを選択してきた。しかし「生活」「人生」を考える中で、横河武蔵野FC加入後に就職活動を行い、今の仕事と出会った。

 インタビュー後編は末次さんにアスリートの就職活動、人材派遣会社での仕事、競技の両立、家族と人生設計について語ってもらっている。

前編はこちら

――リクルートスタッフィングとは、どう出会ったのでしょうか?

末次 元々横河武蔵野FCに所属されていた方で、転職エージェントをしている方がいらっしゃったんです。そこでリクルートスタッフィングを紹介してもらいました。

――リクルートスタッフィングを選んだ、志望した理由はなんですか?

末次 26歳の未経験からの挑戦は簡単ではありません。でもリクルートスタッフィングはまず「挑戦させてくれる」会社でした。

 私は九州が大好きで、いずれ帰りたいと思っています。営業職の求人であれば、九州でも仕事が多い可能性が高いですし、「無形商材の方が市場価値は高めることができるのでは」とアドバイスももらいました。そこで、人材派遣サービスを提供する企業であり、未経験から挑戦できる環境と、さらに裁量を重視する社風に魅力を感じ、リクルートスタッフィングを志望しました。

――筋が通っていますね。

末次 そのタイミングで私はバチッと「もうJリーグはいいや」と決めました。サッカー選手として上を目指さない決断をそこで下しました。「状況がそうさせた」感じです。

――「上を目指さない」と決めたのに、現役を続けている理由はなんですか?

末次 サッカーがすごく好きなので、辞める選択肢を取れなかったです。プロにならないことを決めたからと言って、上手くなりたい気持ちは消えません。自分がサッカーを楽しむためには上手くなることが必要だと私は思っています。

――今はどのような場所、内容の仕事をしているのですか?

末次 業務内容は主に、クライアントへの派遣活用の提案や求人の条件の調整と、就業中の派遣スタッフの方のフォローをしています。

――2023年の入社時はどこのエリアを担当していたのですか?

末次 入間、所沢を担当していました。最初はそこで新規の取引先クライアントを増やすための営業活動をしていましたマネジャーから「未開拓の地域だから、失敗してもいいからチャレンジしてみよう」と言われました。希望していた通りの「裁量を持たせてくれる」「たくさんチャレンジさせてくれる」仕事で、実際にやってみてやりがいもあり、とても楽しかったです。

――飛び込み営業もありですか?

末次 はい、ありました。アポイントをいただくための電話を30件かけて、つながるのがそのうち5件ぐらい、実際にアポイントが取れるのが1~2件です。アポイントをいただけなかったクライアントには近くに立ち寄った際にそのまま飛び込んで、ということを繰り返し、名刺をお渡ししていました。電話口では断られても、実際にお会いすると話を聞いてくださる担当者の方も多くて。「電話口より実際に会った方が印象がいいね。」とおっしゃってくださる方もいて(笑)。抵抗なく新規開拓業ができていました。

――そういうギャップを使いながら提案していくんですね。

末次 入間と所沢はメーカーや工場といった事業所が多くありました。エリアの特性上人を探しているけれどなかなか見つからない企業が多いんです。そのような問題に対して「こういう条件に調整できると派遣スタッフの方にとって働きやすく、エントリーいただけるかもしれない」と提案をしていました。

――「成功した」「決まった」みたいな事例はありますか?

末次 「未経験でも、企業のカルチャーを理解する力や周囲と協力しながら業務を進められる力があれば、今回のポジションにはマッチするのでは」といった提案をしたところ、条件を調整いただき、無事派遣スタッフの方の就業が決まりました。それが入間、所沢エリアを担当していた時代の一番の成功体験だったと思います。

――担当エリアが八王子に変わって、変化はありましたか?

末次 八王子は、駅の周りにオフィスが多いため求人も多く、他社の派遣会社と競合になることが多くあり、まだ苦戦しています。でもどうやったらうまくいくかを考えることはすごく楽しいです。また、入間・所沢エリアを担当していた時と同様、いかに八王子エリアで働きたい派遣スタッフの方に選んでいただけるかを考え続けています。先輩にも相談したり、マーケットの状況を調べながら、クライアントにも共有し、求人の条件を調整をしています。

――逆に「これは失敗した」というエピソードはありますか?

末次 失敗はたくさんしてきました。私はビジネスパーソンとしての経験が浅すぎて、社内用語と社外用語の区別が付いていなかったり、ビジネスメールを作成することにも時間がかかりました。今でも苦労する場面がありますが、その際は先輩のマネをしたり、社内のツールやナレッジを活用して、業務を効率化できるように工夫しています。

――1日24時間、1週間7日間の使い方はどんな感じですか?

末次 1日はまず朝起きて、子どもがいるのでミルクをあげたり、おむつを替えたりするところから始まります。仕事の標準労働時間は9時から17時半ですがフレックスタイム制なので、自身で調整することが可能です。私は、8時または8時半から業務を開始して、メールチェックなどの事務処理を早めに終わらせます。日中は商談や派遣スタッフの方と面談などを行い、18時半頃まで仕事をし、それから練習場に移動します。基本的には担当エリアの八王子から直帰し、すぐ準備して三鷹の練習場に向かっています。そして19時から練習を開始しています。

[写真]=ご本人提供/パパとしても奮闘中

――練習のオフはどういう感じですか?

末次 練習は月・木が基本的にオフで、土曜日に試合があるときは木曜日も練習になります。練習がオフの日に溜まっている仕事をやらないとさらに溜まっていくので、特に月曜は遅くまで仕事するようにしています。

 あとシーズンが終わったら横河武蔵野は1カ月くらい全体練習もオフになります。身体は動かさないと鈍るので、週2~3回は動きに行っていますね。

 2年くらい前に結婚したのですが、社会人として収入が安定したことで、結婚を決断することができました。

――サッカー選手経験で仕事に活きている部分はどこですか?

末次 サッカーは止まらないスポーツなので、改善するために何をするべきか、ずっと考え続けないといけません。業務量が多い中で優先順位をつけながら、「もっと良くするためにはこうした方が良い」と考えることは得意です。反対に言うと、止まって考えることが苦手です。思考を深くして「しっかり策を練る」力が弱くて、そこは課題と感じていて、今後伸ばしていきたいなと思っています。

――飛び込み営業を「楽しい」と言える人はそんな多くないと思います。そういうメンタリティも強みですね。

末次 人と話すのは好きですけど、プライベートでは実はかなり人見知りです。飲み会では、隅っこに座り、誰とも喋れないような感じです(笑)。なので、営業場面でも最初はとても緊張していたのですが、「少しでもお役に立ちたい」「成長したい」と思い、割り切って話せるようになりました。周りの先輩にも営業場面に同行してもらい、アドバイスをいろいろと受けながら何度も練習してきたことも成果につながっていると感じています。あと私はいい意味で自分に期待しすぎていないので、できないことが起きた時にがっかりしないんですよ……サッカー以外は(笑)失敗したら学んで次に活かすしかないなと。転びながら前に進んで学ぶしかないなと考えていました。

 横河武蔵野FCに入って就活を始めてから、少しずつ自己分析をするようになり「何をやりたいのか」「サッカー人生がいつまでか」と考え始めました。もしサッカーの指導者になるとするとどんな働き方になるのか」など詳しく調べたりもしました。そのとき「引退した後も土日が潰れるのは嫌だな」と思ったんです。

――サッカーの指導者は週末が確実に潰れますね。

末次 当時まだ結婚はしていませんでしたし、子どももいなかったですが、「子どものサッカーをできれば見に行きたい」と思ったんです。

――アスリートがネクストキャリアへ向かう上で、これは大事という心構えはありますか?

末次 大事なのは「有名な選手だったからといっても、ビジネスパーソンとしてはゼロスタートなんだ」と受け入れる心でしょうか。私も入社後は慣れないことばかりで大変でしたが、とにかくがむしゃらに目の前のことに一生懸命取り組みました。失敗することを当たり前にはしたくありませんが、大事なのは次どうするか。周りの先輩からのアドバイスも素直に聞き入れ、まずはやってみる、挑戦してみることを大切にしてきました。

――3年前の末次さんと同じように人生の岐路に立って、仕事を必死に探している人へのアドバイスはありますか?

末次 焦って決める必要はないと思っています。お金が足りないとか、周りの状況は厳しいかもしれません。だけど自分が本当の意味で納得する決断をしたとき、人はすごく頑張れるはずです。しっかりと自分と向き合う時間を取れることはそんなにありません。決まらないときはむしろチャンスだと思って。自分に一番合う仕事が何なのか、考えて決めていただければと思います。

――10年後、20年後はどういう人生をイメージしていますか?

末次 私が未経験からこうやって営業職としてビジネスパーソンになれた経験を活かして、自身のキャリアを迷っている方、未経験から挑戦することに不安を感じている方を助けたいという気持ちがあります。上長や周りの先輩のように、つまずきそうな人をしっかり支えてあげたいし、ときには失敗して転んだとしても、適切にフォローをし、その責任を取れる器の大きな人間になりたいと考えています。

 将来的には、地元の九州に帰って、経験を活かして働きたいなと思っています。リクルートスタッフィングにも九州オフィスがあるので、いつか異動する選択肢もとれたら嬉しいですが、まずは、クライアントや派遣スタッフの方のために今の環境で求められていることと、自分が何ができるかを深く考えて業務に取り組みながら、日々過ごしていきたいと思います。やるべきことをやり切って、無事九州に戻ることができたら嬉しいです!(笑)

【末次敦貴プロフィール】
株式会社リクルートスタッフィング エリア営業統括部西東京営業ユニット 1グループ
横河武蔵野FC ゴールキーパー
福岡県出身 1996年生まれ

中学時代はサガン鳥栖U-15に所属。長崎日大高校、東海大学熊本でプレーし、大学時代は九州選抜としてデンソーカップチャレンジサッカーに出場、ロアッソ熊本の特別指定選手としても登録された。
大学卒業後はホンダロックSCに社員選手として加入。その後、ラインメール青森FC、コバルトーレ女川、横河武蔵野FCと通算4クラブでプレー。現在はJFLで守護神としてレギュラー争いをしながら、株式会社リクルートスタッフィングでフルタイム勤務を行う、デュアルキャリアを実践している。

【リクルートスタッフィングについて】
リクルートスタッフィングは、リクルートグループの中核会社として、人材派遣やアウトソーシングなどのサービスを提供し、事業を通じて『「らしさ」の数だけ、働き方がある社会。』の実現を目指しています。

そのビジョン実現に向けて、「がんばれ!がんばる!応援団」を合言葉に、働く人々に元気を与えるスポーツ活動を支援しており、バスケットボールチーム「アルバルク東京」や、バレーボールチーム「ヴォレアス北海道」「ウルフドッグス名古屋」「ジェイテクトSTINGS愛知」のスポンサーを務めるほか、大同生命SV.LEAGUEにおけるプリンシパルパートナーを務めています。

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やや守備範囲が広めのスポーツライター。時にはスポーツ界の「ファウルグラウンド」まで取材のグラブを伸ばすことも。 サッカーキング、バスケットボールキング、ベースボールキングに続いて、ついにバレーボールキングへの進出も果たした。

1991年生まれ、宮城県出身。 小学生の時にマンチェスター・ユナイテッドを心のクラブに選定。取材で、マン・C/アーセナル/チェルシーなどに携わることができたが、未だにマンチェスター・ユナイテッドからの話は無い。

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